カッチは悩んでいた。

 一向に強くなれない自分に。

 すでにマーフィーズゴーストとの修行はかなりの期間に及ぶ。もう何万回彼を斬ったかわからないほどに。

「ひょっとして、俺には才能がないのじゃろうか。」

 ギルガメッシュ・タバーンで酒をあおりながら呟く彼であった。

 傍らのドラゴンスレイヤーも、未だに十分活躍のときを与えられずに寂しげに立てかけられている。



 …数時間後。

「あ、カッチ殿でござる。」

 酒場に入ってきたバカが、カウンターに突っ伏しているカッチを見つける。

「カッチ殿……」声をかけようとしたバカの肩に誰かの手が置かれる。

「そっとしておいてあげてくださーい。」

 その声は、読みづらいので今回から平仮名表記のセリフになった、マーフィーズゴーストの物であった。

「マーフィー殿。おはようでござる。」

 最近は節操なく迷宮から街に出てくる(しかも朝でも昼でも)、このベルボトムが似合いそうなインチキヤンキー幽霊に半ば呆れながらもバカは挨拶をする。

「カッチ殿はいつも、ミーと修行した後にここで軽い食事と酒をとって、疲れのあまり寝てしまうのでーす。」

「へえ、いつも……って、おい!でござる!」

「なんでござーますかー?」

「ってことは、カッチ殿はいつもここで寝てるのでござるか?」

「さよーでございまーす!」

「…いますぐ宿屋へ放り込むでござるー!!カッチ殿が弱いままなのはそのせいでござるー!!」

「ホワァーイ?」

 そう、カッチとマーフィーは、アドベンチャラーズ・インに泊まらなければ強くなれないという、人類のルール、自然の理を知らなかったのだ。



 そんなわけで、バカとマーフィーはカッチを馬小屋に放り込んで一日待ってみることにした。

 案の定、宿屋からは「カッチはレベルが上がった!」という宿屋の親父の叫び声が一日中響いてくることとなった……。



 翌日、宿屋から出てきたカッチは、外見的には特に変わったところはなかった。

 それはそうだろう、レベルに比例して体もごっつくなってしまっては、普段全裸でいるバカなどは、それはそれはものすごい事になっているであろうし。

「なにか生まれ変わったような気がするのう。」

 自信に満ち満ちた声であった。



「うむ、宿屋に泊まらないと強くなれないとは気付かなかった。礼を言うぞ、バ〜カ。」

「その呼び方は、なんかムカツクでござるよ。」

「気のせいじゃよ、バァ〜カ。」



「まあ、本当に感謝しているのじゃよ。これで、俺の長年の夢がかなう…。ではさっそく行ってくるぜ!」

「おーう、カッチ、待ってくださーい!」

 カッチとマーフィーはすごい勢いで走っていった。

 なるほど、すでに背中の巨大なドラゴンスレイヤーも重くはない様子、とてつもないパワーアップである。

 まるで100倍の重力で修行したかのようだ。

 バカは(ネタが古い上につまらないでござるな…)などと謎な事を考えつつ、する事もないので酒場へ向かうことにした。



 ピアとムタを交え、ハタハタの田楽をつまみに酒を飲んでいると。

「おうっす……」

 疲れた表情でカッチが入ってきた。

 ずるずると重そうにドラゴンスレイヤーを引きずり、席につく。



「どうしたでござる?さっきはあんなに張り切っていたのに、でござる。」

「うむぅ、実は長年の夢をやっとかなえたのじゃが…。」

「おめでとうでござる。ところで、その夢ってなんだったのでござるか?」

「ロードに転職するのが夢だったのじゃよう。」

「転職って…」

「夢をかなえたら、またレベル1になったのじゃよう…」

「あたりまえでござるー!!」



 こうしてリルガミンの町に、ヒットポイントだけがやたらに多いレベル1のロードが誕生した。

 傍らでは、ついでに幽霊から亡霊に転職したマーフィーがハハハハハ!と笑っていた……。

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